まつげエクステの話①

三週間に一度のペースで、まつげエクステのメンテナンスに行きます。

 

家の近所のサロンを敢えて通り抜けて、電車で数駅。

 

駅を降りてすぐの細い路地を入ると、古い佇まいの和食屋や、煙草屋、夜を前に息を潜める飲食店が並んでいて、

 

その路地に、その小さなサロンはひっそりと店を構えています。

 

わざわざ電車に乗って通う理由は、施術の早さと格安の料金、そして、ある一人のスタッフ。

 

 

通い出したのはもうずいぶんと前のことで、

 

その頃は、六つほどあったベッドがいつも客で埋まっていました。

施術にあたるスタッフも控えがいるほどの人数で、かなりの人気店だったように思います。

 

ところが通い始めて一年位が過ぎた頃、スタッフはたった一人になりました。

 

あれだけ人がひしめき合っていた店内は突然、一人の店員、それに伴い一人の客、誰もいない五台のベッド、という構成になりました。

 

そのスタッフ、正直見覚えがない。

新しく雇われたようではないし、とにかく印象が無いんです。

 

化粧気の無い整った顔と、束ねられた黒い髪、

細身のジーンズにTシャツかニット、足元はスニーカーというシンプルな服装。

これ以上無いほどにあっさりとしている目元は、まつげサロンに勤務していながら、まつげエクステなど装う気などさらさらないようでした。

 

身のこなしも話し方も、飄々としている。

余計なことはしない。話さない。

ただ淡々と素早く正確にまつげをつけていく。

 

初めはコミュニケーションの少なさに物足りなさを感じていた私ですが、

その後別のサロンに行って色々な人の施術を受けるうち、

 

無駄のなさ、正確な仕上がり、飾り気の無い振る舞い

 

彼女こそプロと言うのに相応しいのでは、と思うようになったのです。

 

 

 

 

続く